連載するといって、随分間隔が空いてしまいました。
小生の怠慢です。
さて、前回はハイパーインフレはなぜ起きたのか
という点に関して、
三橋氏の論説の妥当な点とおかしな点、
両方についてご説明しました。
今回は、「日本の経常赤字化」について見ていきます。
三橋氏が政府債務を問題視しない最大の理由は、
日本が世界最大の対外純資産国であるという点にあります。
三橋氏は著書『高校生でもわかる日本経済のすごさ!』の中でこう述べます。
「世界一のお金持ちの家庭(日本国家)では、
旦那さん(日本政府)が974兆円もの大金を借りています。
しかし、別に外部の金融機関などから借りているわけではなく、
奥様(家計)から借りているのです。(中略)
この家の奥様は、一個人としては世界最大の金持ちで、
純資産額が1058兆円にも達しています。
結果、この家庭は一家族としての純資産額が
243兆円もの規模に及び、
この金額は家庭の純資産としては
世界最大となっているのです」
さて、
この三橋氏の家庭を使った比喩は妥当なものでしょうか?
妥当だと考えられます。
ただ、これはストック(蓄積)の話であって、
フロー(流れ)の話ではありません。
そして講演を聴いてみますと、
三橋氏もこの対外純資産(ストック)は
経常黒字(フロー)の積み重ねの結果だということは、
認識しています。
そして、今問題になっているのは、
(三橋氏は問題視していないのですが)
ずっと黒字を続けているわが国の経常収支が、
遠くない将来赤字化するのではないかということです。
経常収支が黒字であるということは、
貯蓄投資バランスの観点から言いますと、
国内の資金で自国の経済活動が賄えている、
外から借り入れる必要がないということを意味します。
経常黒字は、賄えてさらに余りがあることですから、
それが積み重なって対外純資産をなしていくわけです。
そして、私たちは(国もですが)
資産で生活するわけではありません。
資産は蓄積の結果であり、生活は日常の収支で行ないます。
その日常の収支、経常収支が遠くない将来、
赤字化するのではないかという見方が、
識者の間で広がってきているのです。
最近も5月17日の日本経済新聞に
「10年代半ば、経常赤字に?」という見出しで、
大きく報じられていました。
経常赤字に転落するのではという根拠は、
貯蓄投資バランスの観点からしますと、
「高齢者が増えると、過去の貯蓄を消費に回す動きが強まる。
(中略)
日本では家計や企業の貯蓄が政府の財政赤字を賄う」
(上記日本経済新聞)
とりわけ家計の貯蓄で賄う構造になっているのですが、
貯蓄率が低下し家計の貯蓄が減少すると、
国内のマネーで賄えなくなってしまうからです。
これを取引の面から見ますと、
輸出は減少し輸入が増えて貿易赤字になり、
それが大きくなって遂には所得黒字より大きくなってしまう。
それ故、経常赤字化するということです。
こういう見方が増えてきているのです。
しかし、三橋氏の講演会の後、
小生が日本の経常赤字化について質問した時、
彼はこう答えました。
「100年はない!」
根拠についての説明は、時間もなかったのでしょうが、
ありませんでした。
三橋氏は前掲書の中でこうも言っています。
「マスメディアの皆さんにはお気の毒ですが、
日本政府の財政破綻など、
今後1000年間くらいは起きないでしょう」
彼はこういう論拠不明な極端な断定を好みます。
そのあたりが、彼のロジックにはまっていく人たちには、
気持ちよいのでしょうが、
小生は逆に不快感に近いものを感じます。
それは、1000年はもちろん、100年後のことだって、
経済予測などほとんど不可能だと思っているからです。
例えば中国。
今から100年前と言えば、
中華人民共和国の前の中華民国の前の清朝末期。
中国は欧米列強の半植民地状態にありました。
その時、今の中国経済を予想した人など、
それこそ誇張ではなく、一人もいないでしょう。
さて、三橋氏は上記の「貯蓄率低下」に関して、
「家計の貯蓄率が低下したら国債を発行できなくなる」
という説を、
「ある著名大学で『経済学』を担当している経済学者殿」の
「思わず気が遠くなるほどトンデモな理論」
とこき下ろしています。
(『民主党政権で日本経済が危ない!本当の理由』)
小生はあまりこういうモノ言いが好きではないのですが、
それはともかく、
次回は「貯蓄率低下」と「経常赤字化」の話を
もう少し突っ込んで考えていきます。
再生日本21
執行役員 稻田雅彦
こんにちは。稲田様。
三橋氏は比例代表で自民党から参院選に出馬するんですね。
鳩山辞任の風が追い風となるか向かい風となるか・・・注目ですね。
私は経済について難しい事は分からないので、彼の論説についての評価が難しいのですが、私の中で彼は「ネット上(のみ)需要がある経済評論家」という位置づけです。ネット選挙の解禁も持ち越されそうなので、「祭り」を起こせるかどうか、疑問ですね。
稲田様の文の転載になりますが、
「マスメディアの皆さんにはお気の毒ですが、日本政府の財政破綻など、
今後1000年間くらいは起きないでしょう」
などまさに、ネットウォッチャーをとらえる発言でしょう。多少過激かつ、マスコミを敵視した主張でなければ、ネット上では見向きもされませんから。根拠・ロジックは二の次では。
ただ、今後(参院選)の焦点は、財政健全化力をいかにアピールするかになってくるでしょう。増税さえ世論が受け入れる土壌ができつつあるなんて、前回(衆院選)までとはえらい違いです。
管財務相は、新首相就任後、財務省の思惑通りに財政再建を進めていくでしょう。ギリシャ・ショックもあり、国民は日本の財政にそれなりの危機感を抱いています。
その中で、彼の「日本経済は大丈夫!!」論は、上滑りして耳にも残らないんじゃないでしょうか。
投稿情報: 愛国心 | 2010年6 月 4日 (金) 09:44
素人なのですが、質問させてください。
上記文章の
> 貯蓄率が低下し家計の貯蓄が減少すると、
> 国内のマネーで賄えなくなってしまうか
> らです。
の部分と下記の部分がどう繋がるかが
よく理解出来ませんでした。
家計の貯蓄が減少することが、輸出の減少、輸入の増加にどう繋がるのかもう少し
説明して欲しいです。
> これを取引の面から見ますと、
> 輸出は減少し輸入が増えて貿易赤字に
> なり、
> それが大きくなって遂には所得黒字より
> 大きくなってしまう。
> それ故、経常赤字化するということです。
投稿情報: 経済素人 | 2010年6 月21日 (月) 00:52
返答のコメントを入れたつもりが、
なぜだか入っていないことに
今日気づきました。
改めて入れ直します。
経常収支と貯蓄投資バランスというのは、
同じ数字を別の側面から表すものなのですが、
まずは分かりにくい式を使った説明からいたします。
少しでも分かりやすくするために、経常収支=貿易収支としてご説明します。
国民が作ったもの全て(国民総生産)から、内需(消費+投資)を引いた分は輸出に回されますね。
それが貿易黒字です。
これを式にしますと、
国民総生産-(消費+投資)=貿易黒字 ですね。
この式の前の部分を括弧ってみますと、こうなります。
(国民総生産-消費)-投資=貿易黒字
括弧でくくった(国民総生産-消費)は何を意味するでしょうか?
貯蓄です。消費しない分が貯蓄に回るわけです。
ですので、そこの部分を貯蓄に置き換えますと、
貯蓄-投資=貿易黒字
となります。
貯蓄が減るとこの式はマイナスになりますよね。
これは計算式上での説明ですが、
これだと感覚としてはよく分からない・・・ですよね。
砕いてご説明しますと、
戦後、日本人は一所懸命に働いていい物を作って輸出して、
貿易黒字国になりました。
そういう企業で懸命に働いたサラリーマンは稼いだお金を貯蓄しました。
(もちろん国内のみを対象とした企業のサラリーマンもたくさんいますが、
ここでは別に取り上げません。
そういう封鎖経済の話をしても貿易黒字の説明には意味がありませんので)
ところが、人口減少時代に入り、働き手は急速に減っていくことになります。
どんどん出てくるリタイア世代は貯蓄を取り崩しますし、
減っていく働き手の給与は伸びないので、
当然貯蓄率は低下します。
そして、働き手が減るわけですから、輸出も減るわけです。
また、最近はしょっちゅう報道されていますが、
企業が海外に出て行ってますよね。
これも輸出、貿易黒字減少の要因です。
そして一方では、リタイア世代もモノは買いますからね。
働き手が減って国内生産が減っても、
リタイア世代はまだ買うのはやめませんから、
そうしたら輸入が増えざるを得ない。
したがって、貿易赤字になるというわけです。
後半の方が感覚的には分かりやすかったでしょうか。
投稿情報: 稻田雅彦 | 2010年7 月 5日 (月) 14:49
> 貯蓄率が低下し家計の貯蓄が減少すると、
> 国内のマネーで賄えなくなってしまうか
> らです。
の部分と下記の部分がどう繋がるかが
よく理解出来ませんでした。
家計の貯蓄が減少することが、輸出の減少、輸入の増加にどう繋がるのかもう少し
説明して欲しいです。
> これを取引の面から見ますと、
> 輸出は減少し輸入が増えて貿易赤字に
> なり、
> それが大きくなって遂には所得黒字より
> 大きくなってしまう。
> それ故、経常赤字化するということです。
この答えは、ブログ:高校生からのマクロ・ミクロ経済学入門http://abc60w.blog16.fc2.com/
に詳しいですよ。一度ご覧あれ。
投稿情報: 政治家 | 2010年12 月12日 (日) 09:19